津家庭裁判所 昭和51年(少)1241号 決定 1976年10月28日
少年 D・M(昭三一・一〇・三〇生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してあるビン入りラッカーシンナー一本(昭和五一年押第八四号の1)、同空びん一本(同号の2)、ビニール袋二枚(同号の3)はいずれもこれを没取する。
理由
(非行事実)
司法警察員作成の昭和五一年一〇月九日付少年事件送致書記載の審判に付すべき事由(家庭裁判所調査官作成の昭和五一年一〇月二六日付少年調査票参照)と同一であるからここにこれを引用する。 なお津保護観察所長から通告のあった虞犯事由(昭和五一年少第一二五二号)については、この虞犯性が現実化したものとして上記非行事実が発生したものであって虞犯要件は犯罪の特別構成要件に対し、補充的従属関係にあり、後者の認定、適用ができるときは前者をこれと別個独立に認定、適用すべきものではないと考えられるので、通告にかかる虞犯事由は優に認定できるところであるが、以下その認定、適用を特に掲記しない。
(法令の適用)
毒物及び劇物取締法第二四条の4、第三条の3(事実)、少年法第二四条の2第一項第二号、第二項(没取)
(処遇)
少年は昭和四七年三月中学を卒業して就労生活に入つたものであるが、長く同一職場に定着することがなく転職を繰返し、現在は建設業下に型枠大工として雇傭されているものの、生活実体からしてその稼働意欲には疑問がもたれる。本件非行であるシンナーボンド乱用に関しては少年は既に相当の前歴を有している。即ち昭和四九年春頃から習い覚えて現在まで数十回に及んでいるものと認められるが、その間警察、家庭裁判所、保護観察所等関係機関の指導、援助を経由していることは勿論で、昭和四九年一二月当庁においてそのために保護観察処分に付せられた。ところが少年の自覚を喚起することができなかつたのか、同行為は依然として改まらず、当裁判所でその後に同様事件を受理すること本件を含め二回に及んだほか、警察官に補導された分などを含め公的機関で探知しえた分のみでも合計四回に及んでいる。保護観察の特別遵守事項に反することは勿論のこと、その都度重ねてそれぞれ注意、警告があつた筈であるから、少年が真からこのような悪習を改めようとする気持があつたのかどうか疑わざるをえない。のみならず少年の遵法心の欠如は交通非行の上にも顕著に表われている。同非行についても少年は既に当裁判所で事件を受理すること八回に及びその間さまざまな保護的措置、刑事処分を受けてきているものであるが依然として改まらないまま今日に及んでいる。中には本年七月前記シンナー吸引による不正常の状態で自動車を運転して橋に衝突する事故を惹起して自から負傷するという危険な結果を招いているものもある。本件はしかもその後二ヶ月を出ない非行である。少年の容易ならぬ問題性はこれらに客観的に表われているという外ない。このように表面的には頻発するシンナー乱用、交通違反、交通事故がさしあたり問題となり易いが、このほか前に一言した就労生活の実体(頻回転職、稼働意欲の低下傾向)、交友不良(非行歴ある者や自動車に関心の強い者などとの限られた交際)、不純異性交遊(同棲経験や数人の女性との性的交渉)など非行親和的要因は少年を取巻いて、豊富に存在していて、根本的には少年の生活観や姿勢を根底から立直す必要が痛感されるのである。ここで少年の家庭をみるに、実父は大酒家で別に女性関係があつたりして生活費を渡さないなどのことから母との間に争いがたえず、少年の中学三年頃母は家を出て別居し、次いで正式離婚し、まもなく叔父(父の弟)と同棲するに至り、一方父は現在の継母を迎えて内縁関係を結び同棲するという、少年にとつて家庭が二つある状況を現出している。しかし少年は実父宅を嫌つて殆んど寄りつかず、実母のもとに寄寓することが多く、変則的な家庭生活が少年にとつて心理的不安をもたらしていることは争えないであろう。また実父は叙上の家庭状況を反映してか、少年を自分の子ではないから関係がないと突放して全然その監護に意を用いるところがない。かくして家庭的保護環境は少年にとつて有利とはいえない現状である。一方資質鑑別の結果によれば、少年は活発で変化を好み、感覚的な刺激を追求して刹那的であり、気分や思いつきで行動しがちであると共に、欲求耐性や粘着力に欠け、小心気弱で周囲の状況に無批判に同調して行動しがちであつて全体として成人域に達した年令の割に未熟で自我が確立されていないということであり、おおむね少年のこれまでの生活行動を内面から裏付けている。かくして綜合するところ少年の非行性は相当根強いものがあるが、それは弛緩した生活観による放恣な行動が最近二年余の比較的短期間のうちに反覆され壌成されたことによる点が多く、これについて目標を定めた生活訓練を短期集中的に受けさせることによつて充分更生の見込もあると思われるので、中等少年院の短期処遇課程による矯正教育を受けさせるのがよいと考える。
以上、少年に関する当庁家庭裁判所調査官作成の調査票並びに津少年鑑別所の鑑別結果通知書等を併せ考えるに少年の健全な育成を期するためにはその資質、生育歴、生活環境及び本件非行の罪質、犯情に鑑み、少年を中等少年院(但し短期処遇課程)に収容し、規律ある矯正教育を施すのが相当であると認める。
よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項後段、少年院法第二条により主文のとおり決定する。
(裁判官 上本公康)